<- 「地域から日本を変える」・1993年3月号

地方議会を動かす、地方議会を刺激する、地方議会に手紙を出す

「地方議会を読む」取材班


 政治の深層亀裂の崩壊を住民が手助けしてはいないか!

 あなたの地域の人々は幸せか。地域の暮らしは安定しているか。住民と地方 議会が「仲良く連携プレーしている地域」は、地域自身が輝いている。


 声高に叫ばれている政治改革の潮流、それは中央政権だけの世界ではない。日本末端の議会こそ「変わらなければ」ならない。深層亀裂を放っておいたらいずれ崩壊する。本誌「シリーズ・地方議会を読む」は、たくさんの市町村議会議員あるいは都道府県議会議員を取り上げることによって、地方議会の自己変革の道を探ってきた。

 取材を通じて知ったもっとも重大なことは「地方議会とは何か」を私たち地域の住民があまり知らない事実である。地域に一番身近な地方議員の役割、しなければいけない仕事、住民にはほとんど「見えていない」。地方議員に対する認識が「地域のお世話役」「就職コネの依頼」というイメージが大半。これでは深層亀裂の崩壊を住民が手助けしているようなものだ。

 「いい地方議会を育てる」「生きた地方議会に蘇生する」ために、われわれ住民1人1人ができることは何だろうか。棄権をしない、議員に金銭を要求しないことなどは当然として「1票を投じる」以外のことで力を使えないか。

 地域の1人1人が、自分の足もとから可能な政治改革の方法がありはしないか。それこそわれわれが進めている「地域から日本を変える」運動(略称・ちにか運動)かもしれない。日々のくらし、身近なところから日本の政治を変えていく運動。バッジをすでにつけている人たちの世界の話で終始してはならない。

 地域に密着している地方議会で頑張っている議員さんがいたらエールを送るのも「改革につながる」。地域という公共の幸せを創造してくれる地方議会の姿をいくつか探ってみたい。

1 行政をチェックする議員

 地方議会の最大の機能は「首長・行政のチェック」。役所のしていることが正しく住民の「いい暮らし」につながっているかいないかの見張り役だ。議会にその機能があってこそ、首長・行政の仕事に知恵が倍加し、磨きがかかるというもの。オール与党化で行政の提案はノーチェック、ナレ合い議会や、逆に何でも反対、行政のちょっとしたミスを取り上げては鬼の首でも取ったように騒ぎ立てるような議会が多いのも事実。

 立法府である国会と異なり、地方議会は納税者の代議員として、住民の立場にたった政策は応援し、そうでないものは鋭く追求する。「車の両輪」の役目が必要である。

 「地方議員の仕事は、税金がいかに無駄なく、効率的に、公正に使われるか、これをチェックすることですわ。議員に執行権はないんやから、選挙の時に、あれをします、これをしますって言うのは、あら全部<ほら>ですわ。地方の議員にできるのは、議会での質問、監査請求、行政訴訟。一般の人より情報は入りますから、議員がしっかり追求せんとあかん」(加名田光三・京都府八幡市議)。

 「議員は住民の立場でモノを言うべきなのに、この頃は議員が理事者(知事や行政執行部)に追従している」(笠羽清右衛門・福井県議)。

 「議員は、非常勤の特別職公務員なのですよ。議会がなかったら、一番喜ぶのは何でも勝手なことができる首長でしょう。首長の行政をチェックするのが議員、議会の最大の仕事」(野村稔・全国都道府県議会議長会調査部長)。

2 条例を提案する議員

 住民のニーズを汲み上げ、先取りして提案することは地方議員に与えられた貴重な権限。そのための、公約実現に最も手近な手段が「条例」の制定である。「条例」とは地方議会の議決を経て成立する地方自治体の「法」のこと。憲法や地方自治法による制約はあるものの、地方自治法第112条で地方議員の議案提出権が保証されている。でもやっていないのだ。

 議案提出のほとんどすべてが地方公共団体の長(都道府県知事や市町村長)によるものになっているのは情けない。政治がこれだけ注目されているときだからこそ、政治家は必要に応じて、一歩踏み込んだ条例の取り組みをしてほしい。それには有権者の地域からの声も必要である。

 「条例ではない宣言・決議のたぐいが、いかに無力かということを痛感した。宣言や決意というのは結局自治体としての一方的な意思表示であって、必ずしもそこに住む市民の思いの結晶ではないということです」(吉田慶喜・鹿児島県名瀬市議)。

 壮絶な選挙違反で悪名高い奄美群島。「なんとかして市民の手による腐敗選挙防止をしたかった」。その一念で政治倫理条例づくりをすすめた吉田議員は名瀬市議会に提起した。市議会はヒアリングや調査を重ね、約半年後の平成2年10月、全党・全会派共同提案で可決した。この条例には「見張り行為(選挙期間中に地域への出入りをチェックすること)の禁止」「尾行禁止」といった項目まで書き込まれた。市議会が選挙と政治の浄化に手を下さざるを得なかった状況が伺える。

3 地方議会を気軽にのぞく

 大分県大山町はアメリカ並みにCATV(有線テレビ)で町議会の本会議をノーカットで放送している。視聴率は高い。議員発言が増えた。役場の課長と議員が政策で大議論になるような場合、視聴率は一段とあがる(本誌「頑張る首長」16ページ)。

 「政治から不正をなくすには、議会・議員が自ら向上すること。そのためには常日頃、選挙民の監視にさらされなければいかん」(望月良訓・元蒲原町議会議員)という考えのもと始まった静岡県蒲原町のナイター議会(昭和58年7月〜63年3月)。「開かれた町政をいかに実現するか」という議員みんなの思いが実った。午後6時から開催で、昼間仕事のある市民も傍聴に現れた。その効果が面白い。

 何もやっていないのに「あれはオレがやった」という議員の過大宣伝や一人よがり発言がまかり通らなくなったのである。町政に対する正しい批判をする町民も増えた。議員全体が総じて勉強するようになった。議員全員が発言することも。

 蒲原ナイター議会は手間の問題などで中断しているが、「住民に開かれた議会」の土壌は継続している。現在では全員協議会・常任委員会・特別委員会の公開も行われ、傍聴席はだいたいいっぱいだ。議員全員が参加する一般質問に比べ、細かい議論も多く、白熱する委員会質疑は、本音も出るからか公開する事例は全国でも少ない。必要以上の閉鎖的な議会にとって蒲原方式は学んでいい。

 地方議会は本来、住民と接近しているものだ。納税者の代理人がなにを発言したのかは興味がある。発言を聞けば自分の選んだ議員の人格も判明する。住民サイドで言えば「議会は別世界」ではない。自分達の代弁者の集団なのだから、関心を抱かない方が不思議である。議員側も古い習慣や既成概念にとらわれず、住民が参加したり興味を持ちやすい議会にしてほしい。

4 政策で議論する地方議会

 地方議会を傍聴に行くと意外と面白い。身近な地域開発の議題が上がっているときなどがチャンスだ。

 と、思って行ってみてがっかりする。議員全員が参加して開く一般質問は儀式化している。「言論の府」が「朗読広場」に化けている。

 質問する議員は清書した原稿をていねいに読み上げ(しかもあらかじめ理事者に通告済み)、答弁する執行部は役人の書いた答弁資料を慎重に読み上げる。これで緊張感が生まれるわけはない。<読み上げ一般質問>の後、再質問の時間がある場合も、ほとんど使わないことが多い。極端にいえば、一部の野党の質問時間以外は、質問者も答える行政も全部準備した原稿を読み上げるだけ。「はっきりいって寝ています」(ある議員)。

 議会の運営をスムーズにするには、型どおりの儀式も必要。それ以前に、問題は地方議会が地域の公共の幸せのための政策を論議しているかいないかだ。道路1つとってみても、信号機1つとってみても、地域をどうするかのグランドデザインをいかにしていくかの総合判断である。そういう根本の政策論議をしている場面を、われわれは傍聴したい。

 そのためには、地域の声を議会に聞いてもらうのも手だてだ。「陳情書」などを議会に送って、地域の問題をつぎつぎと挙げていって、議員の政策意欲を喚起させよう。

5 やさしい議会言語にする

 議論が盛り上がっても、時代遅れの難解な「議会言葉」は、聞いているほうには解らない。「本件の付託後において」「遺漏なく対処する所存であります」などという議会の言葉は一種の「隠語」みたいなもの。「可及的速やかに」とはどのくらい早いのか。「蓋然性」だの「狭隘な」だの「思料する」だのさっぱりわからない。「してまいる所存」「鋭意努力」「前向きに検討」「善処する」なはど否定なのか肯定なのか? 

 宇都宮市役所は、ロビーのテレビで議会中継を見られるようになっていた。市民から「何を言っているのか難しくて解りにくい」という苦情。議会も「文語的表現や二重三重の言い回しがひんぱんに使われ、市民から言葉が遠くなっている」という、ことば改革の動きが起きた。

 「議会用語」を現代的でやさしい「議会ことば」に変身させようというのである。マスコミにも取り上げられ「後には引けないムード」で休み無しの作業を続け、昭和62年12月の定例会から新しい用語(議事次第書も)でスタートした。この動きは、栃木県の行政用語の見直しへと波及している。(「わかりやすい議会用語〜言葉の行革」宇都宮市議会編・ぎょうせい刊)

 「それぞれの地方の身近な方言で、議事次第をやってもいいはずです」(野村稔・都道府県議会議長会議事調査部長)。

6 読まれる議会リポート

 冨岡務・宮崎県えびの市議は13年間休まず、自費で市議会の報告を発行し続けている。市議会定例会の開催は年4回。始まる前には日程表と自分の質問項目をプリント。終わった後は自分の質問と執行部の答弁の要旨を作って届けている。手書きだから、普通のお手紙風だ。

 「市民の代表として議会に出ているのですから、議会で、なにをしているかの報告は当然です」と。他の議員の支持者からも「うちの議員はこういうのを出していないので是非送ってほしい」と言われることがあるほどの人気。影響されて、昨年4月から市議会自身が『えびの市議会だより』の発行に踏み切ることとなった。

 最近の行政広報(「県のたより」など)は、堅苦しい内容をできるだけわかりやすく面白く読めるように工夫している。議会報告は残念ながら「固い」。興味をもって読ませようとする工夫がない。たぶん「どうせ、読者もそうはいない」とタカをくっっているのではないか。編集作業を議会事務局にまかせきりにしないで、議員さん仲間が「編集委員」になって、自ら新聞作りに携わったらいいと思う。

 議員のナマの声が載っていれば誤解も減る。議員のふだんの自主的取り組みには手間もお金もかかるんだ、という素直な報告があっていい。議員活動は自分自身で報告しない限り、知ってもらえないのが地方政治の実情。国政に比べると有権者に関心を持ってもらう工夫がまだまだ足りない。

 例えば評判の悪い視察旅行の日程・成果を明らかにすることも必要なこと。カラ出張だとかスキャンダルとして報道されなくてすむようなコトだってある。

7 「エリア」でとらえる思考

 住民から見て、議員は「まちづくりのプロデューサー」であってほしい。地域の環境やゴミの問題、高齢化社会の問題など自分の地区だけが良ければ、という発想は時代遅れだ。 全体のまちづくりを考えたとき、文化について、福祉について、産業について、開発について、時には国境を越えて地球規模で語れる地方議員が望まれている。かつて松下政経塾の創設者・松下幸之助は「国会議員は国のことを7割、自分の地域のことを3割考えるようにしなければ」と、政治家を志す塾生に伝えた。

 地方議員は地域全体(県会議員ならば県、市会議員ならば市)のことを考えるようでありたい。選挙区の利益代表ではない思考の人であってほしい。全体が幸せならば自分の地域も幸せになる。長いレンジの政策をもった議員を選んだことに喜びを感じる。

 鈴木洋樹・山形市議の故郷は三重県四日市市。自然と人間が調和した山形に惚れてあえて「よその地域」の議員を志したものの、大学時代住んだだけの山形で唐突に市会議員選挙に臨むのは無謀。案の定、落選の苦杯をなめた。

 「おれが山形を良くするんだ」との思いで再挑戦、今度は当選した(平成3年地方選)。「保守的とも、閉鎖的ともとれるこのまちを変えていくには、時として大きな変革が必要です。私利益誘導型ではなく、山形市全体をパワーアップさせること、これを実現することが私の目標」。市会のエイリアンと言われながら活動を続ける

 議員は、総合的に地域全体の中でものごとのすべてを考えるようでありたい。そのためにまず彼らを送り出す私たち住民が、自分の住んでいるところだけでなく、市全体、県全体を考える選挙民でなければ。新時代は「大きな入れ物」としてのエリアをよくする思想が大切と思う。地球だって「入れ物」なのだ。

8 過半数はほしい女性議員

 地方議会が「大きなエリア」のニーズを汲み上げられるかどうかは、いろいろな分野の幅の広い多角的な視点がどうしても必要になる。各界各層からの議員が参集することが望ましい。

 女性議員は特に必要である。日本の半分は女性であることを考えれば、現状の女性議員はあまりにも少なすぎる。2581ある町村議会のうち、女性議員が1人もいない議会が1981・77%にもなる。都道府県議会・市区議会・町村議会の全体ではわずか3・1%(91年6月1日現在)。政府も婦人問題企画推進本部を設置して、女性の候補者を増やすよう各政党にお願いしているのが実状である。

 「選挙のとき行政に対して素人だと言われるのは仕方ないですが、女に何ができると言われたのには、何でそんなことを言われなきゃならないのだろう、と思いました」(北村春江・兵庫県芦屋市長/わが国初の女性市長、『地域から日本を変える』92年12月号)といった意識の払拭が先決だろう。 北欧諸国には女性議員が過半数という地方議会もめずらしくない。スウェーデンの高齢化率と女性議員の進出状況をグラフにしてみると、ぴったり正比例していることがわかる。高齢化社会は労働力が不足する。それまで社会的に活用されていなかった女性の労働力が、社会のあらゆるところに進出するようになる。そして介護など福祉のニーズは女性のほうが詳しい。高齢化社会は女性政治家の時代なのだ。

9 議員にFAX(手紙)

 「アズ・ア・タックス・ペイヤー(1人の納税者として)」。米国では、議員の事務所に毎日のように有権者からの手紙が届く。どの手紙も「納税者として−−」という書き出しだ。納めた税金をよりよく活用してもらうため、自分が選んだ地域の議員に率直な注文や政策を期待して意見を届ける。 「私は納税者として」議員さんにこんな仕事をしてほしい、こういう政策をやってもらいたい、先の議会でのあなたの意思表示には賛成(反対)だ、などいろいろな手紙を出す。 「議論に花咲く議会」にするのも「ナイター議会やCATV中継で開かれた議会」にするのも「エリア思考の議会」にするのも、そんな住民の手紙1本がヒントになるかもしれない。アメリカの地方議員は納税者の代表として、社会(エリア)をよくする仕事を任されているという認識があるから、こまめに返事を書く。

 住民団体や自治会などが出す「請願書」(ナイター議会を開け、とか)「陳情書」(ナニナニに関する条例を作れ、とか)も、もちろん必要。地方議会を動かす大切な政治手段だ。

 手紙は正式な「陳情書」「請願書」でもない「単なる手紙」だから、議会で取り上げられるかどうかはわからないが、有権者からの手紙は、議員にとっては大きな励みだ。市民の代表として政治にかかわっている手ごたえを感じるという。 ファクシミリを通じて出せば、議員さんの側も「自分の議会便り」を、ファクシミリを持つ家庭や企業、商店に「一斉同胞通信システム」で一挙に<宅配>してくれるかもしれないではないか。

 「納税者として、お手紙したためます。----」のフレーズで始まる手紙が日本に蔓延したら「地域から日本は変わる」。(「地方議会を読む」取材班)


 ▼シリーズ・地方議会を読む(平成4年4月号〜5年2月号総目次)4月号「ナイター議会あった。静岡県蒲原町議会の議会公開ほか」5月号「あの奄美が政治倫理条例制定。鹿児島県名瀬市の政治倫理条例ほか」6月号「福祉予算のこんな疑問。議員の監視力を問う。千葉県議会ほか」7月号「議員の選挙公約を探る。実行率を示した議員。東京都武蔵野市議会ほか」8月号「さよなら難解言葉。栃木県宇都宮市の言葉改革ほか」9月号「老練・高齢議員の心意気。土着がなせる地域思い。地方議会の長老議員の研究」10月号「議員章の真実を探る。議員バッジの意味について」11月号「今、女性議員の視点が生きる。兵庫県川西市議会ほか」12月号「議員から政治の宅配便。個人新聞事情の裏。議員の広報誌について」1月号「議員定数を解剖する。6議席しかない岐阜県藤橋村議会ほか」2月号「21世紀の新しい議員たち。未来を予感させる地方議員の誕生」



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