羽ばたけ320万のチョウ

 

早稲田大学大学院教授
北川 正恭氏

 「北京でチョウチョが羽ばたくとニューヨークでハリケーンが起きる」。複雑系理論、カオス理論の説明でよく登場する。ノーベル化学賞を受賞したイリヤ・プリゴジンの例え話は、ある系に異分子が飛び込んできた場合、系が安定していれば異分子は生きられないが、異分子が非常なスピードを持っていれば系に揺らぎが生じ、系は新たな「文法」を採用するというものだ。

 今、中央集権・官僚統治というこれまでの日本の枠組みが揺らいでいる。そこへ飛び込んできたIT革命は時間や空間という既存のバラダイムを破壊した強力な異分子であり、それによって予定調和の世界は崩れ去る。全国四十七都道府県、杓三千二百の市区町村がチョウとなって飛び出せば、日本の今の閉塞(そく)感は急速に消え失せる。

 日本は「集権・官治」から「分権・自治」へ変わりつつある。自治とは自立である。政府のいう「三位一体の改革」は自治体の自主財源確立、自己決定を迫る。

 従来、自治体職員は管理していれば良かった。管理は既に存在する仕組みを前例や慣例に従い効率的に運営すればいい。しかし、自立するには、新しい価値を創造する「経営」が必要であり、「戦略」が必要だ。私が大学院で講義しているのは行政学や政治学ではなく「公共経営」である。パブリックポリシーではなくニューパブリックマネジメントだ。

 経営感覚を持って自立した職員を育成するために欠かせないのが情報の共有化である。三重県知事時代、私は当時の県職員六千人のチョウと対話すなわちダイアログを行った。時として深夜に及び、泊まり込みでの論議もあった。ある県職員の計算では、一年問の執務時間を二千時間として知事の任期二期八年で一万六千時間、そのうち一万二千時間を私は職員との対話、ダイアログに使ったという。それによって六千のチョウが羽ばたき、百八十六万県民と協働、コラボレーションするようになった。

 全国の自治体三百二十万人の職員がチョウとなって飛び交えば、日本は立ち所に変わる。古来、革命は宙の中枢からではなく、辺地から起きた。地方が廃れて国が栄えることはないことを思い起こせばいいのだ。

 

参照:楽天「中学生の父親の独り言」http://plaza.rakuten.co.jp/elmhurst86/

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